立華の京都探訪帖

1200年の都を歴史・文化的視点から楽しむ旅記録 ᝰ✍︎꙳⋆

切り絵でめぐる、令和再興「雪月花の三庭苑」

 

京都には至る所に庭園があります。

色鮮やかな植物が美しく池や小川がある庭園や、水を一切使わずに石と砂だけで山水を表現した庭園など、その種類も様々です。

かつてそんな京都には、雪月花の庭と呼ばれた三庭苑が存在していました。

 

 

雪月花の三庭苑と松永貞徳

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安土桃山時代から江戸時代初期を生きた著名人に、松永貞徳という人がいます。

俳諧の先駆者として有名な人ですが、彼が有名な理由はそれだけではありません。

貞徳は清水・寺町二条・北野の3ヶ所にあった成就院という塔頭それぞれに、日本の美を楽しむことを目的とした庭苑を作りました。

(※作庭者については諸説あります)

雪景色を楽しむための庭には「雪の庭」の名を、また月見を楽しむための庭には「月の庭」と名付け、花を鑑賞するための庭には「花の庭」の名を付けました。

江戸時代、この三庭苑は優れた庭苑として名を馳せたそうです。

 

しかしながら明治初期になると北野にあった「花の庭」が取り壊されてしまいます。

その結果、現存するのは「雪の庭」「月の庭」の2つだけになってしまいました。

それが2022年。

「花の庭」が再び北野にその姿を現し、大変な話題を呼ぶことになりました。

 

令和5年、三庭苑全てが揃い、更には同時公開されるという奇跡が起こる

最早自分が生きている間にその三庭苑の全てを拝むことは不可能だと思っていたのですが、「花の庭」が復興したことで令和の時代にまさかもまさか、三庭苑が勢揃いしました。

とは言え、妙満寺の「雪の庭」は常時拝観が可能ですが、清水寺塔頭成就院の「月の庭」が拝観できるのは春(GW期)と秋の特別公開時のみ。

復興された北野天満宮の「花の庭」は梅苑であるため、梅の季節にしかお目に掛かることが出来ません。

つまり再び三庭苑が揃いはしたものの、同時期にその3つを拝むことは不可能だったわけです。

それがなんと!

令和5年の1月から3月にかけて、冬の京都・文化財特別公開イベント:京の冬の旅で「月の庭」が公開されることになりました。

その特別公開期間が北野天満宮の梅苑公開期間と重なったため、三庭苑が同じ時期に拝観できるという奇跡が生まれたのです。

 

三庭苑が再び揃ったことで、その公開に合わせ、各寺社で庭苑を模した切り絵が授与されました。

非常に美しい切り絵であり、その細かさと高い芸術性に圧倒されたのはきっと私だけではないでしょう。

と言うわけで、その美しい切り絵をそれぞれの寺社・庭苑と合わせて紹介したいと思います。

 

1.北野天満宮 花の庭

「花の庭」が復興したのは、学問の神様として菅原道真が祀られている北野天満宮

多くの受験生が参拝に訪れることでも知られています。

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「雪の庭」と「月の庭」は現存していましたが、唯一「花の庭」だけがこの世から姿を消していました。

それを令和になってこの北野天満宮に復興。

春になると開園する梅苑の中にその姿を見ることが出来ます。

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こちらが北野天満宮「花の庭」の切り絵です。

描かれているのは楼門と本殿の間にある中門:三光門と、それを取り囲む可愛らしい梅の花

「花の庭」は復興されたものの、当時の詳しい資料が残っていないため、名苑として名を馳せた当時の姿が完全に再現されたわけではありません。

とは言えこの切り絵を眺めていると、もしかすると当時はこんな「花の庭」だったのかもしれないという、自分なりの「花の庭」が頭に思い浮かんで来ます。

そんな想像を膨らませつつ復興された新しい「花の庭」を鑑賞すると、より味わい深い拝観になるかもしれませんね。

 

2.妙満寺 雪の庭

雪の庭がある妙満寺は、洛北岩倉にあります。

最寄駅は叡山電鉄木野駅、もしくは市営地下鉄烏丸線国際会館駅です。

以前は寺町二条にありましたが移転。

その際に「雪の庭」も一緒にこちらに移転して来ました。

現在は宝が池の程近く、その北西に妙満寺は位置しています。

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妙満寺は桜やツツジ、紅葉など四季折々の景色を楽しむことが出来る点も魅力的。

歌舞伎の演目でも知られる「安珍清姫伝説」にまつわる鐘も有名なお寺です。

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そんな妙満寺の「雪の庭」の切り絵がこちら。

庭苑そのものだけでなく、雪見障子や座布団なども切り込まれ、現地に足を運んだことのある方にはお馴染みの、室内からの眺めがそのままに表現されています。

雪がしんしんと降り積もる、冬の情景が重なるような。

まるで絵画の様な繊細な仕上がりは芸術的で、風景写真を切り取ったような緻密さにはうっとりしてしまいます。

 

3.成就院 月の庭

最後は清水寺塔頭成就院「月の庭」です。

普段は非公開のお寺ですが、観光客の多い清水寺エリアにあるため、特別公開の際に拝観したことのある方も多いかと思います。

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こちらのお寺、月の庭以外で有名な点は、幕末に勤王志士たちが密談を交わした場所であるということです。

特別公開の際には、西郷隆盛近衛忠熈らが密談していた部屋も拝観出来るので、幕末ファンや歴史ファンにはたまらない場所でしょう。

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そんな成就院の「月の庭」を模した切り絵がこちら。

左下に描かれているのは豊臣秀吉が寄進したことで有名な「誰が袖手水鉢」。

借景に使われている高台寺山、斜面の音羽山は細かく切りこまれ、その手前にある烏帽子岩や蜻蛉灯籠の存在感も見逃せません。

水面には庭園の名に相応しく、お月さまの姿も。

視点が低い上に遠近感を利用しており、縁側すぐの場所にある誰が袖手水鉢が大きく描かれているため、一枚の平坦な台紙に奥行きが感じられます。

切り絵でここまでの奥行きを表現出来ることに驚かされました。

 

専用の台紙にセットしてみました

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三庭苑全ての切り絵を飾ることが出来る台紙を事前に購入していたので、飾ってみました。

「花の庭」と「雪の庭」の切り絵は2022年に拝受していたのですが、同年には「月の庭」の切り絵のみ手に入らなかったので、最早全てを揃えることは不可能かと思っていました。

ところが今年三庭苑が同時公開になり、ようやく「月の庭」の切り絵も拝受でき、無事全ての切り絵を集めることが出来ました。

時々台紙を開いては眺めているのですが本当に美しい。

横長の額縁を買って、そちらに飾ろうか検討中です。

 

さいごに

ここ数年、御朱印が大ブームです。

最近は切り絵の御朱印を授与されている寺社も増えて来ました。

そんな中、庭苑を切り絵で表すというこの試みは本当に素晴らしかったと思います。

考えた方に拍手を送りたい程です。

今後もこの切り絵は授与される機会があるのかは不明ですが、もしご縁がありましたら是非入手してみてください。

その美しさに驚かされることと思います。